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大震災 / 被災概要

(「阪神・淡路大震災による被害と復旧」『神戸市立博物館研究紀要』12号より抜粋)


神戸市立博物館の概要旧居留地地域の被害状況震災カレンダー
報告・シンポジウムなど被害に関する刊行物

神戸市立博物館の概要

神戸市立博物館(中央区京町24番地)は、JR三ノ宮駅と元町駅の中間地点より約500メートル南、旧外国人居留地内のメイン・ストリート京町筋に面している。  博物館の建築は、1935年(昭和10)に竣工した旧横浜正金銀行神戸支店を改造したもの(旧館)と1982年(昭和57)竣工の新館を隣接させ、通路部分を結合させて完成したものである。
その収蔵品は「南蛮屏風」「聖フランシスコ・ザヴィエル像」をはじめとする南蛮紅毛美術品をはじめ、国宝桜ヶ丘銅鐸を含む考古資料、我が国随一の規模と質を誇る古地図資料、中世以来の兵庫・神戸の歴史を物語る歴史資料、あわせて3万8千点を擁している。
震災前日まで、常設展示、ならびに企画展「南蛮美術名品展」「江戸時代の名所巡覧展」、ギャラリー「安東聖空展」が行われおり、これらは撤収待ちで震災当日そのまま展示されていた(ちなみに震災当日は休館日にあたり、本来は大半の職員が出勤しない日にあたっていた)。そして、次回に行われる予定の特別展「秦の始皇帝とその時代」の展示資料輸送準備が名古屋で開始されていた。

旧居留地地域の被害状況

神戸市立博物館の立地する旧居留地一帯は、旧生田川(居留地東端、現フラワー・ロード。流路は明治4年に現在の新生田川に付け替えられた)と旧鯉川(居留地西端、現メリケン・ロード、暗渠)の間に位置する低湿地を、1868年1月1日の神戸開港にともない造成したものである。ビル街として最大の被害を被ったJR三ノ宮駅付近と比較すると、やや被害が軽いように感じられるものの、震度7の地域に含まれる模様である。
旧居留地内の約100棟(多くは鉄筋・鉄骨の中・高層ビルであるが、低層ビルや木造建築、駐車場なども含まれる)の建物のうち、平成8年3月現在全壊(取り壊し)は21棟で、全体の約2割にのぼる。また、足場を組んで全面的な建物修理を行ったビルは14棟(5階以上を撤去した市役所2号館、屋上の鉄塔を撤去したNTT神戸ネットワークセンターを含む。但し、足場の有無を目安とした目測調査によるもので、各建物の被害の実態は把握していない)。
概ね被害を免れたのは、昭和60年頃以降に建築された高層ビル、建築中のビル、駐車場などに限られる。居留地の特徴的な地震被害は、地盤沈下と地下水の浸水で、浸水による被害は博物館以外にも見られた。

震災カレンダー

平成7年1月17日(火)午前5時46分大地震発生。三宮付近は震度7の地域だという。

博物館の建物は、外見上はさほどダメージを受けているようには見えなかったが、新館と旧館の連結部・地下室などを中心に大きな被害を受けた。

当日出勤できた職員は9名、徒歩で出勤できた職員、乗用車を利用した職員などである(常勤の職員26名中の約35%にあたる)。

停電のため全く作業は不可能で、わずかに懐中電灯で被害状況を確認するのみ。断水のためトイレなども使用不能(2月5日まで)。

1月18日(水)。防災指令第3号発令、全員出務の体制に入る。1月25日より開催予定だった「秦の始皇帝とその時代展」の中止を決定。展示資料は1月19日に搬入予定であり、間一髪で難を免れた。懐中電灯による被害状況の確認続く。南蛮美術館室の転倒したケース内から資料搬出、固定ケース内に保管する。ほとんど傷を受けていないのでひと安心。国宝桜ケ丘銅鐸14点のうち転倒した12点を起こす。午後7時ごろ事務室付近のみ電気復旧。展示室・収蔵庫等は依然として停電。

1月19日(木)。停電が続いているので懐中電灯の光で被害状況を確認しながら展示室・収蔵庫などを撮影。16日まで開催していた南蛮美術名品展に出品していた軸を巻き、屏風類を固定ケース内にねかせて余震にそなえる。常設展示のうち破損を免れた江戸ガラスなどを保管。この日天津市芸術博物館館長雲希正氏より見舞の電報届く。

1月20日(金)。桜ケ丘銅鐸を南蛮美術館室の固定ケースへ移し余震にそなえる。地下の湧水とまらず、資料・書籍等を一部1階ホ-ルへ搬出。この日全館点灯。

1月21日(土)。地下収蔵庫の考古関係資料搬出。江戸時代の名所巡覧展の出品資料を展示ケ-スから搬出。4階収蔵庫の屏風棚・工芸品棚等に余震にそなえ落下防止のロープをはる。マップ・ケ-ス、書棚等転倒したものを立て直す。

1月22日(日)地下収蔵庫・倉庫の資料・印刷物等を1階ホ-ルへ搬出。4階収蔵庫の陶磁器ガラス類等の破損状況確認。学習室点検。

1月23日(月)。地下各室点検、漏電の恐れあり、以後立ち入り禁止。事務室整理文献資料室点検開始。デュオコウベに展示中の開化絵皿等点検に行く。

1月24日(火)。桜ケ丘銅鐸・銅戈を余震にそなえ京都国立博物館へ寄託するため出発。25日に預ける。明日より区役所・避難所への職員応援体制の指示あり。館には副館長、学芸・管理両課長、管理係長、女子職員4名が残留(25日は区役所へ5名、26日以降は区役所へ5名、避難所へ8名の応援派遣)。この頃より、取材・電話見舞・来館見舞多くなる。

1月25日(水)。4階収蔵庫11の転倒した銅鏡用木製ケ-スを立て直し、鏡の破損状況点検。

1月27日(金)。事務室・図書室等整理。市より自転車2台支給あり。

1月31日(火)。荷物用エレベーター復旧。

2月6日(月)。消防設備点検。

2月13日(月)。水道復旧。

2月17日(金)。毎日新聞社より復興支援展覧会開催の申し出あり(のちに「神戸・芦屋・西宮を愛した画家たち」展として実現。)

その他2月中に常設展示資料の片付け、書庫の整理、写真資料の整理、展示ケ-スへの震災の影響調査・撮影、展示資料配置図・被害記録作成などを行う。

3月1日(水)。資料の特別利用を再開。

3月中には、建物・展示資料・収蔵資料の破損に関する国庫補助関係資料の作成。兵庫県南部地震にかかる効率社会教育施設の平成6年度国庫補助計画書提出。 

3月31日(金)。震災以来はじめての全体会議。

4月1日(土)。防災指令第3号解除。この日から避難所支援体制は各人週1回程度となる。

4月7日(金)。平成7年度震災復旧事業の国庫補助申請書提出。(5月9日に現地において査定。)

5月31日(水)。収蔵庫10の鉄骨柱調査のため、所蔵資料の配架変更。

5月から6月にかけては全館の空調設備が故障のため、収蔵庫内の資料を移動させたり、建物復旧工事の準備や被害備品の搬出のため資料・書籍等の移動と仮置きのくり返し。

6月末 給排水関係工事終了。 

7月3日(月)。博物館震災復旧工事日程打合せ。

7月4日(火)。地下再浸水。事務室以外の空調不能のため、カビ・錆による被害発生。

8月20日(日)。避難所解消。

8月21日(月) 。避難所支援一部解消。

8月31日(木)。事務室書架搬入。

8月後半は建物復旧工事の準備開始。各種機材等移動。

9月には、建物関係工事が一斉にはじまり、一時は東西外壁部が工事用足場で覆われる。

10月3日(火)。可動ケ-ス等修理のため搬出。

10月4日(水)。破損したマップケ-ス搬出。

10月6日(金)。破損した書架搬出。

10月23日(月)。マップケ-ス搬入。

10月中は収蔵庫、書庫、特別展示室2等の復旧工事続く。空調関係工事、エレベ-タ-修理工事等もはじまる。 ガス関係工事終了。

11月には常設展示室のケ-ス等の修理も進み、12月中に修理完了。機関関係・エレベ-タ-関係工事も完了。

1月4日(木)~9日(火)に収蔵庫等燻蒸作業を行う。

1月8日(月)~9日(火)館内清掃

1月9日(火)~12日(金)常設展示等復旧作業。

1月10日には館の工事完成検査も終了し、いよいよ1月17日(水)再開館。

報告・シンポジウムなど

〈1995年〉

3月30日於:国立民族学博物館
『博物館施設における歴史資料の防災と被災後の対応』 
主催:国立歴史民俗博物館
報告:喜谷美宣「被災博物館の対応」(スライド使用)


6月3日於:神奈川大学
『第17回古文化財科学研究会大会』 
主催:古文化財科学研究会
パネルディスカッション:森田稔「文化財を災害からいかに護るか-阪神淡路大震災がもたらしたもの」
資料:「直下型地震による博物館施設への影響-神戸市立博物館の場合」『第17回古文化財科学研究会大会資料』古文化財科学研究会 1995.6


6月4日於:奈良大学
『地震から文化財をまもる-阪神・淡路大震災よる考古資料の被災と防御-』 
主催:奈良大学文学部文化財学科保存科学研究室
報告:喜谷美宣「被災の実態-神戸市立博物館では-」(スライド使用)
資料:「兵庫県神戸市 神戸市立博物館-激震地の博物館」『地震から文化財をまもる-阪神・淡路大震災による考古資料の被災と防御-』奈良大学文学部文化財学科保存科学研究室 1995.7.5


6月12日 於:横浜国立大学
全日本博物館学会1995年度(平成7年度)総会並びに第21回研究大会『阪神大震災と博物館-被害状況と地震対策』 
主催:全日本博物館学会
報告:三好唯義「人文歴史系博物館における状況」(スライド使用)


6月22日 於:兵庫県立歴史博物館
平成7年度兵庫県博物館協会総会および第1回研修会『博物館施設における震災の対応と今後の問題点』 
主催:兵庫県博物館協会
報告:喜谷美宣「現場からの報告 神戸市立博物館」(スライド使用)


6月26日 於:京都造形芸術大学文化財科学コ-ス特別講義
講義:森田稔「阪神・淡路大震災による博物館施設の被害」(スライド使用)


7月13日 於:高知県立美術館
『西日本人文系学芸員研究集会』 
主催:西日本人文系学芸員研究会
報告:喜谷美宣「阪神大震災と美術館・博物館」(スライド使用)


10月6日 於:大阪府立夕陽丘図書館ア-ト・ドキュメンテ-ション研究会関西地区部会95年度第4回月例研究会 
主催:ア-ト・ドキュメンテ-ション研究会関西地区部会
報告:勝盛典子「阪神大震災による被害と復旧-神戸市立博物館の場合-」(スライド使用)


10月10日 於:虎ノ門ホ-ル
文化財保存修復学会創立65周年記念シンポジウム『よみがえる文化財-芸術と科学の接点』 
主催:文化財保存修復学会
報告:森田稔「つたえる-災害を越えて」(スライド使用)
資料:「つたえる-災害を越えて」 文化財保存修復学会創立65周年記念シンポジウム『よみがえる文化財-芸術と科学の接点』資料 文化財保存修復学会 1995.10


10月12日 於:関西中小企業総合センタ-
『平成7年度兵庫県博物館協会学芸担当者会議』主催:兵庫県博物館協会
報告:森田稔「被災館・園からの報告」(スライド使用)


10月13日 於:愛知県芸術文化センタ-
シンポジウム『阪神大震災と美術をめぐって』 
主催:全国美術館会議
報告:岡泰正「正解はどこにある-学芸員と公務員の間で-」(スライド使用)


12月1日 於:群馬県立歴史博物館
『群馬県文化財保存研究会』 
主催:群馬県文化財保存研究会
報告:喜谷美宣「阪神大震災と文化財の保存」(スライド使用)


12月12日 於:ほくりく荘(石川県)
『石川県博物館協議会実務担当者会議』 
主催:石川県博物館協議会
報告:森田稔「阪神・淡路大震災における博物館の被害について」(スライド使用)



〈1996年〉

2月8日 於:長野県立歴史館
『平成7年度博物館等関係職員研修会』 
主催:長野県教育委員会・長野県博物館協議会
報告:森田稔「阪神・淡路大震災-その時博物館美術館で何がおこったか」(スライド使用)


2月16日 於:広島県立歴史博物館
『第6回博物館保存科学研究会』 
主催:博物館保存科学研究会
報告:森田稔「阪神大震災と博物館施設」(スライド使用)


3月8日 於:斎宮歴史博物館
『平成7年度三重県博物館協議会会員実務研修会』 
主催:三重県博物館協議会
報告:喜谷美宣「守る・見せる・工夫する展示技法-阪神大震災に学ぶ。神戸市立博物館からのレポ-ト」(スライド使用)


3月15日 於:滋賀県安土城考古博物館
『滋賀県博物館協議会研修会』 
主催:滋賀県博物館協議会
報告:喜谷美宣「阪神大震災を振り返って」(スライド使用)

被害に関する刊行物

・岡泰正,「ヴァニタス-わが内なる震災」
『芸術新潮』1995年5月号 1995,5


・Akira Tsukahara, 'DAMAGE CAUSED TO BOOK-STACKS BY GREAT EARTH-QUAKE IN KOBE (Japan)',
IFLA SECTION OF ART LIBRARIES Newsletter No.36 1995, No.1


・塚原晃,「大地震による書架の被害-神戸市立博物館の場合-」
『ア-ト・ドキュメンテ-ション通信』第26号 ア-ト・ドキュメンテ-ション研究会 1995.7.25


・森田稔,「神戸市立博物館の被災状況と対応」
『滋賀考古』第14号 滋賀考古学研究会 1995.8


・岡泰正,「深刻な震災下の博物館」
『和展』1995年第8号 (財)日本和紙ちぎり絵協会 1995,8,1


・森田稔,「それから180日」
『ちばの博物館』千葉県博物館協会報第78号 千葉県博物館協会 1995.9


・喜谷美宣・森田稔・勝盛典子,「阪神・淡路大震災から再開館まで-経過と被害-」
『神戸市立博物館だより』No.51 神戸市立博物館 1995.12.20


★館外の報告書

・『地震から文化財をまもる-阪神・淡路大震災による考古資料の被災と防御-』 
奈良大学文学部文化財学科保存科学研究室 1995 .7


・高橋信裕・森美樹,「震災と美術館・博物館の展示 ケ-ススタディ・2 震災と展示ケ-スの被害-神戸市立博物館の場合-」
『文環研レポ-ト』第6号 (株)文化環境研究所 1995.8.15


・『阪神大震災美術館・博物館総合調査 報告I』 全国美術館会議 1995.9