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研究紀要

研究紀要:第29号(2013年)

執筆者 論題 要旨
塚原 晃 初期洋風画と「絵画と印刷のセミナリオ」
泰西王侯騎馬図屏風などの制作年代・環境をめぐる試論
神戸市立博物館とサントリー美術館が所蔵する《泰西王侯騎馬図屏風》は、宮内庁三の丸尚蔵館蔵《万国絵図屏風》などともに、屏風装の初期洋風画の代表作とされてきた。その制作はイエズス会周辺の日本人画家と推定され、製作年代については、これらの原本のオランダ製世界地図の刊行年などから慶長16年(1611)あたりを上限とし、宣教師が国外追放され日本のイエズス会組織が事実上瓦解した慶長19年(1614)秋を下限として考えられてきた。その場所としては、イエズス会によって17世紀初めに長崎に作られた美術教育工房「絵画と印刷のセミナリオ」が有力視されるが、これをとりまく経済的・政治的な状況は厳しさを増していた。イエズス会関連の文献、そして近年《泰西王侯騎馬図屏風》を対象に行われた光学調査の結果などを手がかりに、初期洋風画代表作の生い立ちについて新たな仮説を提示したい。
石沢 俊 研究ノート 文献資料と落款・印章から考える広渡湖秀  江戸後期の画家・広渡湖秀は記録上、二人いたことが明らかとなっている。 一人は長崎で唐絵目利(輸入画の鑑定・評価をする職)として活動した湖秀Ⅰ(1737~84)。もう一人は湖秀Ⅰを継いだ後、長崎から京都、江戸へ行った湖秀Ⅱ(1766~1820)。湖秀Ⅱの生年から湖秀Ⅰの没年まで20年ほど重なっているだけでなく、管見のかぎりでは二人とも年紀を持つ作品が確認できていない。二人がどのような関係にあったかも明らかでなく、京都や江戸における湖秀Ⅱの足跡も墓記のほかは知られていない。
当館は、湖秀の落款・印章を伴う作品を一五件所蔵している。本稿では、文献資料と落款・印章から、二人の湖秀を判別する視点を提示するとともに、湖秀Ⅱと京都・江戸の文人たちとの交友の一端を見ていきたい。
石沢 俊 資料紹介 『画図 和漢舩用集』と林リョウ苑 『画図 和漢舩用集』は、大坂の船大工金澤兼光が家伝の資料に基づいて著した「船の百科事典」。当館所蔵本は明和3年(1766)の初版本だが、挿図を担当したのが、当時の大坂画壇で重要な絵師の一人である林リョウ苑(生没年不詳)である。中国絵画に強い関心を抱いていたと伝えられるリョウ苑による挿図は、単なる船事典とは一線を画そうとする意図と、中国絵画学習の一面を垣間見ることができる。(※「リョウ」は「もんがまえ」に「良」)
勝盛典子 南蛮人洋犬蒔絵硯箱の保存修復 南蛮人洋犬蒔絵硯箱(池長孟コレクション)は、桃山時代に製作された南蛮漆器の名品である。本作品は池長美術館開館の昭和15年(1940)以降、南蛮美術などをテーマとする展覧会において公開されてきたが、平成20年に作品点検においてカビを確認したため、平成20年度に保存状況の調査を実施し、応急的にカビを除去した。また、接合部や塗膜についてのダメージが作品全体に影響が及ぶ状態であったことから、平成23年度に継続して修理を実施した。
本稿では、平成20年度および23年度に実施した修理工程を報告する。いずれの修理も文化庁の指導の元に行われている漆工文化財保存修理に則り、原則として現状維持修理を行った。また、修理仕様に関しては、鶴見大学文化財学科加藤寛教授の指導を得た。
勝盛典子 秋田蘭画における彩色表現の特質 ―佐竹曙山筆「岩に牡丹図」と小田野直武筆「獅子図」の検証から― プルシアンブルーの初期使用例である平賀源内(1728~79)、佐竹曙山(1748~85)、小田野直武(1749~80)の画業についての考察を深めるために、2006年から継続的に実施してきた秋田蘭画にかかわる調査結果に基づき、2011年以降の調査対象の作品のうち、佐竹曙山筆「岩に牡丹図」と小田野直武筆「獅子図」の分析調査の結果を検証し、「岩に牡丹図」の考察から、曙山が顔料と染料の両方の性質をもつプルシアンブルーの特質を生かした複雑で多彩な使用法を実践してこの新しい絵具に先駆的に取り組んでいたことを、確認した。また、「獅子図」の分析結果からは少量のプルシアンブルーの使用が推測でき、直武と源内にとって実験的で初期の作品であることを裏付けた。
神戸市立博物館開館30年記念シンポジウム 神戸市立博物館は昭和57年(1982)11月3日に開館し、今年(平成24年)、30年をむかえた。当館では、開館30年を記念して、マウリッツハイス美術館館長エミリー・ゴーデンカー氏、国立現代美術館ソウル館館長チョン・ヒョン・ミン氏、姫路市立美術館館長山脇佐江子氏を講師に迎え、「これからの博物館-果たすべき役割」をテーマに国際シンポジウムを開催した。シンポジウムの概要、各発表者の内容など、シンポジウムの成果を報告する。