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研究紀要

研究紀要:第27号(2011年)

執筆者 論題 要旨
石沢 俊 南蛮人交易図屏風―探幽による南蛮屏風の変容 「南蛮人交易図屏風」(神戸市博本D)は、南蛮屏風のなかでも交易ず系統の作品のひとつである。粉本である本図には「探幽筆」という墨書痕があり、狩野探幽がこの種の作品を手がけた可能性を示唆しており興味深い。本稿では、交易図の総合的な研究を始めるにあたり、本図の図様の検討および類本の把握を行い、探幽が南蛮屏風を変容し、さまざまな人々が港でともに交易し、交流する交易図を創出した可能性を指摘した。
塚原 晃 研究ノート 『海外新話』の視覚 ―その挿図と五雲亭貞秀 アヘン戦争を題材として嘉永2年(1849)開鐫おそくともその12月に官許を受けぬまま出版し、絶版処分とななった読本、嶺田楓江著『海外新話』は、幕末期の日本人の国際感覚を一変させた書物として知られる。アヘン戦争を取り上げた日本人による著作はそれ以前にもいくつかあるが、本書が広く受け入れたれた理由は、その著述内容もさることながら、ここに掲載された挿図の表現力によるところも大きかったと思われる。しかしこれらの挿図を描き寄せた絵師の名前は本書には明記されておらず、アヘン戦争のイメージをどのように習得したかも全く明らかになっていない。本稿は、今後の解明を期すための道標として、現在知りうる事実の整理を行うものである。。
髙久 智広 〈史料紹介〉「嘉納次郎作家文書」に含まれる台場築造関係史料 本稿では、当館所蔵の「摂津国兎原郡御影村嘉納治兵衛・嘉納次郎作家文書」に含まれる台場築造関係史料を翻刻・紹介する。この史料群は、御影村で大規模な酒造業を展開した本嘉納の分家筋にあたり、本嘉納の廻船部門を担った嘉納次郎作家に伝来したもので、平成2年(1989)に古書店を通じ、当館の所蔵となった。619件644点からなるこの史料群の大多数は、同家が営む酒売買や廻船業に関する史料であるが、中には嘉納次郎作が幕末に差配方として携わった近代的洋式台場の築造に関する史料36点も含まれている。これらは石材・木材・石灰など、台場築造にかかる資材の調達に関わる商人たちや、彼らを指揮する幕府方の台場掛役人との間で交わされた書状類である。筆者はこれまで、台場の築造過程に関する史料の紹介と分析を行ってきたが、資材調達過程に関わる史料はほとんど知られておらず、これらを公開することで、幕末期の台場研究の進展に資することができると考える。
小野田一幸 京都西町奉行所同心の勤向きについて ―平川伴蔵「日記」の紹介をかねて― 本稿は、研究史において、必ずしも明らかにされていない京都町奉行書の同心の勤向きについて、17世紀中期から18世紀初期に西町奉行所の同心を勤めた平川伴蔵が寛政10年(1798)1月から12月にかけて書き留めた「日記」を素材に、その実態を探ったものである。寛政10年当時、伴蔵が勤めた同心目付は3名によって担われていたが、その職務としては、同心目付を勤めるに際し書かれた「起請文前書」に見える補者や火事場の出勤にはじまり、日々の町廻りや臨時廻り、殺害人や各種事件などの検使、牢舎に関わる事柄、用心の警護など、主に治安維持(現在の警察業務)に従事する多忙な姿が明らかになった。