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研究紀要

研究紀要:第26号(2010年)

執筆者 論題 要旨
川野憲一
問屋真一
有馬温泉寺の銅製経箱 有馬の温泉寺に伝来した銅製硯箱に関し、歴史及び美術史的側面から考察を加えた。制作技法、構造、文様などの検討を通して、内箱は南北朝時代、外箱は室町時代後期に製作された可能性が高く、希少な中世の銅製硯箱であることが判明した。また歴史的には、「冥土蘇生記」などの所伝をふまえた如法経勧進によるものと位置付けた。享禄元年(一五二八)の温泉寺焼失を契機に、勧進経と閻魔王真筆という将来経が混同されることとなり、誤った「閻魔王経」が復興に貢献するとともに、律僧による如法経勧進、如法塔信仰は衰退することとなる。
小野田一幸 京都西町奉行所与力木村家と家中奉公人について 本稿は、現存史料の少なさからも研究蓄積が少ない京都町奉行所与力の実態を明らかにしようと試みた習作である。取り上げた木村家は、京都府町奉行所で代々与力を勤めた家である。すでに指摘があるように、与力は一代抱えが原則であるが、木村家においても、その継承のためには養子によって存続を図るとともに、他の与力などと広範に縁組を行っており、当時の一般的な相続のありかたを見出せた。また、同家の江戸後期における家中奉公人の分析では、半季居の雇用形態によっていたこと、その輩出地としては京都市中のみならず北陸地方にまで拡がっていたことがわかった。
国木田明子 〈資料紹介〉館蔵古地図の袋について―書林情報を中心に袋からわかる事 江戸時代に刊行された古地図には、袋付で販売されたものがあり、当館所蔵品にも該当する資料がある。袋には、古地図出版を考える上で有益な情報が記載されているが、袋が展示されたり、紹介されたりすることは少ない。本稿では、袋の形態や寸法などの基本データーと、出版・販売を担った書林の情報を中心に、いくつかの袋を紹介する。古地図本体と袋の両方を比較することで、古地図名や刊行年・書林名などが判明したり、双方の記載の差異が見つかったりするなど、古地図出版を研究するための基礎的な情報が得られた。
口野博史 〈資料紹介〉―二宮神社保存土器― 布引丸山遺跡出土土器の一部が二宮神社に保存されていた。資料の弥生土器は、かつて小林行雄が「考古学」に掲載した資料である。また古墳時代の須恵器は、生田町古頌群の出土遺物である。現在市街化されてしまい、地上から姿を消してしまった古墳である。調査の結果、生田町2丁目に存在した古墳であり、これもまた小林行雄が調査にかかわった古墳からの出土遺物であろうことが判明した。これらの資料は、二宮神社のご理解ご協力のもと博物館への寄託を受けることができた。
田井玲子 横浜の写真師・日下部金兵衛と神戸風景 2 明治期に海外に輸出された写真資料加、昭和50年(1975)頃から次々と里帰りしてきたことと相まって、「輸出工芸品としての写真]に関する調査・研究が進展した。日下部金兵衛についても、蒔絵アルバムや、孫娘タマら、内田家の人々が大切に保管してきた遺品とその“証言"、当館が収集したカタログ(前稿で紹介)なとがら研究が進み、再評価加なされるようになった。本稿では、先行研究の成果を踏まえ、筆者が新たに確認した資料と、金兵衛の曾孫から伺ったエピソードを織り交ぜながら、金兵衛の足跡をたどる。輸出工芸品としての写真の全盛期を担った金兵衛は、やはり、その衰退とともに写真家としての活動を収束させていったことが跡付けられる。その経緯や背景についても考察を深めたい。また、孫娘タマの夫と義父(ドイツ人)は、早い時期から神戸にもゆかりの深い人物であった。内田家の人々と神戸のつながりは、関東大震災による内田家の来神後、新たな展開をみせていく。
金井紀子 版画家・春村ただをとその作品について 川西英とともに戦前の神戸で活躍した創作版画の作家、有村ただをは長く生没年と経げが不詳だった。2004(平成16)年に遺族と出会い、千葉出身で大正期に来神し、戦後再び千葉に戻った様相が初めて分かった。本橋ではその生涯と主要作品を明らかにする。
勝盛紀子
朽津信明
近世日本におけるプルシアンブルーの受容―秋田蘭画を中心に― 1704年にベルリンにおいて偶然発見された合成顔料プルシアンブルーは、18世紀後半には目本に輸入され、絵画作品に用いられるようになった。近世日本におけるプルシアンブルー受容の実態を検証するために、2004年度から顔料科学的分析をともなう作品調査をおこない、成果を報告してきた。今回は、プルシアンブルーの初期使用例である秋田蘭画を中心に作品調査と顔料分析を行い、プルシアンブルーによる緑色表現など、秋田蘭画の彩色表現の特質を検証した。また、江戸の洋風画家石川大浪と長崎の画家の作品について、彼らのプルシアンブルー受容の傾向を分析し、国産のプルシアンブルーの存在を確認するなど、前回の報告において課題とした点に関して継続調査を行い、考察を加えた。