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研究紀要

研究紀要:第25号(2009年)

執筆者 論題 要旨
川野憲一 龍と宝珠 ―神戸・性海寺蔵如意輪観音画像について 神戸市西区性海寺に伝来した新出中世仏画・絹本著色如意輪観音画像についての考察。まず、図像・表現の分析から、古式な図像と当時最新の様式という矛盾する要素をもった14世紀前半制作の絵画であることを指摘。さらに、この時期、古い図像に最新の様式をまとわせた仏画が急増することを確認。この謎を解くために13世紀~14世紀における性海寺の歴史を史料から探り、1302年、真言律僧・忍性の関与で同寺が関東祈祷所となっていることに注目。武家勢力=禅律勢力 対 公家勢力=顕密勢力の対立という時代の流れの中で、南都の伝統を堅持しつつ、従来の顕密勢力と一線を画した真言律僧の存在証明として、性海寺本のような絵画が制作されたと結論づけた。
高久智広 史料紹介「和田岬・湊川砲台関係史料」について 三 これまで当館『研究紀要』20号(2004)・22号(2006)において、「和田岬・湊川砲台関係史料」の紹介をしてきたが、本稿はそれに続くものである。同史料群の紹介は本稿で完結する。本稿では、和田岬石堡塔の築造当初の見積書である「摂州兵庫和田ヶ岬石堡塔御入用凡積目論見帳」(以下「目論見帳」)を紹介するとともに、すでに知られている「和田岬石堡塔御入用留帳」(仮称、以下「留帳」)との対校を行った。「留帳」はこれまで、元治2年(1865)7月に作成された、ほぼ完成に要した全資材・経費の明細として評価されてきたものである。しかし本稿に掲げた「目論見帳」との対校によって、「留帳」が文久3年(1863)7月~8月頃の作成であり、築造開始当初に近い時期の記録であることが明らかとなった。
岡 泰正 ウイロウパターン・ストーリー  本稿はウィロウパターン(Willow pattern)という柳をモチーフにした図柄にまつわる物語の英文テキストからの完訳の紹介を、第一目的としている。かつては私は同じ物語の抄訳を1984年『神戸市立博物館研究紀要』第1号に掲載したことがあり、今更という気持ちもあるが、その完訳とその後24年間に得られた知見の一端を紹介することも多少の意義があるように思い、ここに活字化することとした。ロマンティックこの上ない物語の紹介、併せてパターン成立の背景の若干の考察である。手本は、中国・景徳鎮窯がヨーロッパ向けに輸出した手描きの絵つけの染付磁器の図柄で、イギリスのデザイナーはこれを開発された銅版転写に置き換えて普遍性の高いパターンに仕立てた。それは、18世紀後期から19世紀にかけての東西文化交流史の特筆すべき事例なのである。
田井玲子 横浜の写真師・日下部金兵衛と神戸風景 1 日下部金兵衛は、日本での「写真」の興隆期を担った写真家のひとりである。横浜を拠点に彩色写真や蒔絵(まきえ)アルバムの製作・販売を手がけ、日本の近代化の大きなうねりのなかでその活動を展開した人物である。本稿では、金兵衛の作品である2冊の蒔絵アルバムとカタログをひもときながら、金兵衛の活動のようすとともに、輸出工芸品としての「写真」の諸相について紹介する。