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研究紀要

研究紀要:第22号(2006年)

執筆者 論題 要旨
勝盛典子 亜欧堂田善鐫「コロンブス謁見図」をめぐって 亜欧堂田善(1748~1822)は、白河藩主松平定信に見出され、その命により銅版画技法を習得した。優れた技術に裏打ちされ独自の情趣に富む彼の銅版作品は、高い評価を得ている。筆者は、2004年に『世界四大洲新地図帳』とワインマン『顕花植物図譜』を例に、田善の蘭書受容の実態とその意義について考察した(1)が、引き続き、原典が未解明である「マリー・ルイーズ」「ネーデルランドの独立」「ピョートル大帝」「コロンブス謁見図」などについて、それぞれの画題選択の理由や意義を検討し、それらの典拠の探索を行ってきた。  田善は白河藩の御用絵師であり、「新訂万国全図」の製作に向けて質量ともに高いレベルで地図情報に接していたことが予測されたため、地図帳および地理情報の周辺資料を中心に調査をすすめたところ、商館長イザーク・ティチングが福知山藩主・朽木昌綱に贈り、のち前田家の所蔵に帰した『新世界地図帳(Atlas Nouveau)』(石川県立図書館蔵)の銅版図の一部が「コロンブス謁見図」と命名される田善の銅版作品の典拠であることが判明した。  本稿では、『新世界地図帳』を所蔵していた前田家(加賀藩)と田善の関係に注目しながら、『新世界地図帳』と田善鐫「コロンブス謁見図」について詳細な検討を加え、田善をめぐる蘭書事情を再考する。
小野田一幸 史料紹介 近世兵庫津における会所日記・続 前々号(20号)に掲載した元禄4年(1691)の兵庫津の岡方会所日記の翻刻に続き、会所日記が未翻刻であった兵庫津の享和3年(1803)の北濱会所日記を紹介したもの。加えて、同稿では津中の町政にも検討をおよぼし、会所役人の職務の多様性などにも触れた。
高久智広  史料紹介「和田岬・湊川邦題関係史料」について 二 本稿は紀要第20号に続き、「和田岬・湊川砲台関係史料」について紹介するものである。本稿では、湊川砲台内部の木造建築部分に使う木材や金属具に関する取調べ帳や石堡塔の出来方帳、川崎町の三軒屋浜に設けられた御用地普請に関わる目論見書など6点の文書史料の翻刻と、石堡塔の内部構造を示す絵図7点を掲載した。また本稿では、本史料群のほか、神戸市立中央図書館が所蔵する「和田岬御台場御築造御用留」をはじめとする築造の実務レベルで作成された史料をもとに、砲台の築造が遅延した要因と賃金変動について、当時の労働力の需給情勢との関わりから若干の検討を加えた。
富山直人 古瓦調査ノート ー柳田コレクションの整理よりー
池田毅 和鏡に見えるもの 神戸市立博物館所蔵の中世和鏡の検討ー 平安時代後期に成立した和鏡と称される青銅鏡は、明治時代にガラス製鏡が一般化するまでの間、いくつかの画期を経てさまざまな形式、種類が生み出されてきた。当館が所蔵する中世期を中心とした和鏡についての検討を行ない、それに関する諸相を追求したい。