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研究紀要

研究紀要:第16号(2000年)

執筆者 論題 要旨
神庭信幸(東京国立博物館) 国立歴史民俗博物館特定研究南蛮関係資料研究班による神戸市立博物館所蔵「聖フランシスコ・ザビエル像」の調査に関する概要 国立歴史民俗博物館では,特定研究「生産と利用に関する歴史資料の多角的分析」の一環として、平成10年1月にザビエル像の科学的調査を実施した。実際の調査方法は近赤外線写真、紫外線蛍光写真、X線透過撮影、エミシオグラフィー、蛍光X線分析、顕微鏡撮影などを用いた。本稿はその分析結果を1.制作当初の状態、2.支持体の構造。3.絵の具の剥落および修理箇所、4顔料の種類、5.媒材の種類、6.描画方法、7.光輪、の諸点についてまとめた中間報告である。その結果、ザビエル像の特徴は、一部に油性分を加えた絵具が用いられていることや、西洋絵画技術の影響を色濃く受けている点にあると考えられる。また、発見直後の光輪の色彩は現在のような黄色ではなかった可能性も指摘される。
勝盛典子 大浪から国芳へ -美術にみる蘭書受容のかたち- 江戸時代の洋風画家・石川大浪(1762-1817)は、水墨を用いた洋風表現について一定の評価を得ているものの、蘭学者の要請に応えて蘭書の挿絵などを模写する挿絵画家的な存在として概ね認識されてきた。しかし、大浪と蘭書の関係を丹念に検証すると、単に発注者とイラストレーターという関係では捉えられない興味深い事例にあたる。 本稿では、大浪の蘭書への関り方や蘭書をめぐる交遊関係などを視野にいれながら、大浪の画業について検討を加えている。また、大浪旧蔵蘭書が浮世絵師・歌川国芳(1797-1861)の作品に深く影響を及ぼしたことを明らかにし、石川大浪と歌川国芳という、個性、身分、活躍時期が異なる二人の画家が蘭書をどのように受容したかを比較検証することによって、江戸時代における蘭学と美術のかかわりの一端を明らかにしている。
高久智広 『岡山藩家老日置忠自筆御用勤書上』と神戸事件 この資料は岡山藩家老日置忠尚が文久3(1863)年から明治3(1870)年までの御用勤を自ら記録したもの。本稿ではこれを翻刻し、幕末維新期の京都政局における岡山藩家老の動向について若干の考察を試みた。本資料からは禁門の変直前に藩主池田茂政より国事周旋の内命を受けた忠尚が、京都において西国諸藩士と積極的に関わりあい、孝明天皇の死去後は藩論を勤皇倒幕に強力に推し進めていく様子が読み取れる。さらに忠尚は、維新政権が開国和親に外交方針を転換する画期となる「神戸事件」に遭遇した岡山藩隊の指揮官としても知られるが、この事件が列強諸国と維新政権、岡山藩との間で処理されていく過程も明らかとなる。