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研究紀要

研究紀要:第13号(1997年)

執筆者 論題 要旨
喜谷美宣 神戸市立考古館史稿 神戸市立博物館のコレクションの一角を占める国宝桜ヶ丘銅鐸・銅戈をはじめとする考古資料の展示、保管を担っていた前身の施設「神戸市立考古館」は、1969年5月1日に開館し、1982年3月31日に閉館した短命の資料館で、これは、その開館に至る経緯と開館後の活動内容の軌跡を記す。過去に開催された歴代の展覧会の内容について、展覧会の趣旨と代表的な出品資料を紹介するとともに、展示における苦労談など、考古資料の展示を専門とする公立の施設がまだ少なかった時代における展覧会づくりの様子を語る。
村上 隆 神戸市立博物館所蔵経簡の材質について 福岡県内の経塚から出土したと伝えられる経筒「銅鋳製経筒」の材質を蛍光X線分析法によって調査した報告である。この経筒は、中世期の銅鋳物の材質を知る上で貴重なものである。調査の結果、本体と蓋は鉛を多く含む青銅(銅と錫の合金)で、中世期の特徴を示しており、鋳造不良の部分は低融点の鉛と錫の合金によって鋳かけられていることがわかった。
尾崎 誠 神戸市立博物館所蔵銅鋳製経簡の保存処理 伝福岡県内経塚出土遺物の銅鋳製経筒の保存処理の内容と処理中に得られた知見についての報告である。保存処理は、処理前調査→クリーニング→洗浄→BTA処理→樹脂含浸→樹脂塗布→復元→樹脂塗布→仕上げの工程で行い、それぞれの内容を記している。また、処理中に得られた、経筒の身の突帯・鋳かけ・穿孔についての知見を記している
三好唯義 P.カエリウス1609年版世界地図をめぐって 初期洋風画の傑作である「泰西王侯騎馬図」や「万国絵図屏風」(宮内庁蔵)などの原本である、P.カエリウス1609年版世界地図を総合的に検証しようとした論文。前半では、その図を生み出した16-17世紀のネーデルラントにおける地図学の歴史と出版者の関係を概観し、後半ではその図から日本で生み出された三つの世界図屏風を取り上げ、各屏風間の比較とヨーロッパ製原図との比較を試みている。その結果、「万国絵図屏風」(宮内庁蔵)が最もよく原図の姿を伝えていること、さらに日本周辺部分が原図よりも改良された表現になっていることから、その屏風が当時における最高の世界地図であることを指摘している。
勝盛典子 播州村上家文書について-特別展「鎖国・長崎貿易の華」補遺- 1994年に当館で開催した特別展「鎖国・長崎貿易の華」は、江戸時代に貿易品の入札権をもつ五ケ所商人であった長崎・村上家の貿易文書の目録作成を契機に、工芸品や工芸材料を中心として貿易文書と舶載資料を比較展示し、当時の貿易の実態を検証する企画であった。本稿は、展覧会期間中に新たに情報がよせられた長崎・村上家の出身地である播州(播磨町二子)・村上家の関係文書を整理・目録化した上で、長崎方の資料で把握できなかった村上家の初期の家系、播州から長崎への出店し長崎貿易へ関わっていく経緯、播州と長崎の村上家の関係などについて報告し、あわせて特別展図録の訂正・補遺としている。